幼児期から児童期にかけてのWMへの情報の保持

Freier, L., Gupta, P., Badre, D., & Amso, D. (2020). The value of proactive goal‐setting and choice in 3‐to 7‐year‐olds’ use of working memory gating strategies in a naturalistic task. Developmental Science, e13017.


今日も前回と同じように少しコアなところではあるが, ワーキングメモリ(以下, WM)への情報の保持の仕方が幼児期から児童期にかけてどう変わるのかに関する最近の論文を簡単にまとめたい

WMへの情報の保持の仕方として, input gatingとoutput gatingという2つがある。gatingとは門の開閉というイメージであり, input gatingとは門を先に狭めることによって必要な情報のみWM内に保持することを指す。outiput gatingとは門を全開にしておいて全ての情報を取り込んだ後に必要に応じてアイテムを取り出す方法を指す。前回の記事で言うと前者は proactive control, 後者はreactive controlに近い。多くの場合, WM課題でcontextとitemを提示する順序で, input gatingまたはoutput gatingをしているかを見極める。ここでいうcontextとは現在の試行でターゲットとすべき文脈を指し, itemはその文脈に属する具体的な項目を指す。たとえば, この研究では赤色で四角の玄関の家がcontextとした場合, 赤色で四角の積み木が正解となるitemとなる。もちろん児童や成人を対象とした場合はもう少し課題が複雑ではあるのだが。提示順序の話に戻ると, contextが一番最後に出てきた場合にはoutput gatingしかできず, 一番最初に出てきた場合はinput gatingもoutput gatingもどちらでもできる状態にある。この研究ではcontext last, context firstと呼んでいる。

先行研究によると, 児童期からを対象にした研究がほとんどで全体としてinput gatingの方がoutput gatingを用いるよりも成績が高くなるらしい。ただし, 子どもは自発的にはoutput gatingを好むらしい。つまり, 基本的には子どもはinput gatingもoutput gatingでもどちらもできるが, output gatingを選好するらしい。

この研究のポイントは, このcontextを子どもが選択するとWMへの情報の保持の仕方が変わるのではないかということらしい。本文では the sense of agency of choice in goal-setting.と紹介している。具体的には、自分で選ぶとよりtopdown式のinput gatingへと移行するのではないと予測している。確かにContext first で自分で選択した場合にはinput gatingへ移行しそうというのはなんとなくわかる。ただ, context lastで自分で選択をするというのは, どういう意味があるんだろうか。おそらく自分が覚えているitemに合うcontextを選ぶというような成績を高める方略をとる子どももいるだろが, いまいち何を検討したいのかがよくわからない。本文中でもここのロジックは割と曖昧で直感的にはおもしろそうな研究ではあるものの, 理論的な位置づけが難しい研究であるのは確かである。それはさておき方法の簡単な紹介をしておく。

実験1の方法

4つの要因を取り扱っている。①context first条件, context last条件, ②年齢3歳児, 5歳児, 7歳児, ③WMへの負荷が高群, 低群, ④Contextを自分で選択する, 実験者が選択する

課題は少し紹介したシンプルなもので, 家の色と玄関に形にあう積み木を選択するというものである。積み木はそれぞれ提示されて, その後カバーをかけられて、子どもの目の前に並べられるらしい。最終的には積み木は全てカバーをかけられており、どんな積み木がどこに位置するのかも覚えておく必要がある。WMへの負荷の高群は積み木が3つで、低い群は積み木が2つである。

実験1の結果

先行研究の知見を拡張する形になるが, 3~7歳児の全てでcontext firstの方がcontext lastよりも成績が良いようである。そして, contextを自分で選択する効果は3歳児と5歳児ではcontext firstの成績の向上, 7歳児ではcontext lastの成績の向上という形で現れた。

実験2の結果

実験2の細かな方法は割愛するが, 7歳児が天井気味だったので, 3歳児と5歳児のみを対象にしている。やはり, context firstの方がcontext lastよりも成績が良いようである。そして, contextを自分で選択する効果は5歳児でのみcontext firstの成績が向上していた。記述統計だけ見ると, 3歳児は自分で選択した場合にむしろ成績が低くなっている。

以上より, 3歳からでもやはりoutput gatingのみしかできない条件よりもinput gatingとoutput gatingの両方をできる条件の方が記憶成績が良いらしい。さらに, contextを自分で選択すると5歳は特にinput gatingを選択するようになることが示されている、この後者に関しては視線の軌跡をとってさらに分析もしている。このあたりが評価されたのかもしれない。ただ, 3歳児の成績が一貫していない, contextを自分で選択する効果がcontext lastに与える影響がよくわからないなど課題も多い研究といえるかもしれない。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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