予測的制御の使用と学業成績との関連

Kubota, M., Hadley, L. V., Schaeffner, S., Könen, T., Meaney, J. A., Auyeung, B., ... & Chevalier, N. (2020). Consistent use of proactive control and relation with academic achievement in childhood. Cognition, 203, 104329.


認知的制御には大きく分けて2種類あり、予測的制御 (proactive control) と反応性制御(reactive control)がある。予測的制御とは目標に関連する情報をいつでも処理できるように準備状態をつくっておく制御をさし, 反応性制御とは必要になった時に初めて目標に関連する情報にアクセスして制御を行うことを指す。

予測的制御 (proactive control) と反応性制御(reactive control)はAX-CPT課題や手がかりスイッチング課題で測定される。AX-CPT課題では, 刺激パターンとしてターゲットであるAXとそれ以外の刺激であるAY, BX, BYの4種類がある。一例としてはAXは7割の確率, それ以外は1割の確率で提示される。肝は, 予測的制御だとBXの反応時間が短くなり, AYの反応時間が長くなる。なぜなら, 手がかりをきちんと保持できていれば, Bがくればもはやターゲットキーを押すことはなく, 逆にAがくればターゲットキーを押す必要があるかもしれないと身構えることになるからである。こうした予測的制御のパターンは5~6歳頃に見られだすとされており, 逆にそれまでは反応性制御がデフォルトである(Chatham, Frank, & Munakata, 2009; Fischer, Camba, Ooi, & Chevalier, 2018; Lorsbach & Reimer, 2008, 2010; Lucenet & Blaye, 2014)。一方, 手がかりスイッチング課題では手がかりをもとにターゲット刺激を異なるルール(例: 色または形)で分類するという課題である。この場合は, 手がかりを出すタイミングを操作することで予測的制御か反応性制御を確認することとなる。例えば, 手がかりをターゲット刺激よりも事前に提示した場合に反応時間が早くなるのは予測的制御をしている場合である。反応性制御の場合は, 手がかりが事前に提示されていたとしても, その手がかりを事前に処理することがないので, 手がかりがターゲット刺激と同じタイミングで出現した場合と何ら変わりがない。こちらもやはり5歳頃から反応時間が早くなるようになる。

今までの研究では, このAX-CPT課題や手がかりスイッチング課題のどちらか一方で予測的制御が行われているかどうかが確かめられてきたが, この研究では両方の課題で予測的制御が安定して使用されているかどうかを検討している。この問いは重要で, 予測的制御ができるからと言って, その制御を使いこなせているかどうかはわからない。6歳頃だと, むしろうまく使えていないケースが多いことが報告されている (Blackwell & Munakata, 2014)。そのため, 予測的制御を「一貫して」使用するようになるまでにはさらに様々な発達的要因が関与していることが予想される。

実際, 予測的制御の使用の発達的変化の背後にある変数として年齢とワーキングメモリが挙げられている  (Chevalier, James, Wiebe, Nelson, & Espy, 2014; Gonthier et al., 2019; Troller-Renfree, Buzzell, & Fox, 2020)。この研究では, ワーキングメモリの大きな子どもは, 予測的制御が必要な場面では一貫して使い続けることができるということを想定している。ここには, 予測的制御がむしろうまく機能しない状況(全く先が読めない状況など)では使用しないという判断をできることも含意されている。

さらに, この研究ではこうした一貫した予測的制御の使用と学業との関連があることも想定している。実行機能と学業成績の関連は随分たくさんの研究で指摘されてきて, この研究では初めて予測的制御との関連を検討している。こういう問いもすごく大事で, 実行機能と予測的制御の関連を検討するうえでも重要な知見となる。

この研究では7~11歳 102名をターゲットにAX-CPT課題, 手がかりスイッチング課題, 言語処理スピード(統制変数), ワーキングメモリ課題, 抑制課題, 推論課題, 読み能力, 言語能力, 算数課題という凄まじい数の課題を実施している。トレーニング研究プロジェクトの一貫らしく, 規模がすごいなあという感想しか出てこない。

メインの結果を報告すると(オープンアクセスなので図もあり), 

手がかりスイッチングにおける予測的制御の指標(手がかりが事前に提示される条件ー手がかりが同時に提示される条件)とAX-CPT課題における予測的制御の指標(上記の通り)との相関は有意だが, 低めである(r=.21) (一番左の図)。分布を見る限り, AX-CPTにおける予測的制御の得点がMaxだが, 手がかりスイッチングの方では割とばらけているという印象

年齢との関連であるが, 高月齢と低月齢で分けてみると(うーんという感じだが), 高月齢では手がかりスイッチングにおける予測的制御の指標とAX-CPT課題における予測的制御の指標の相関が有意で, 低月齢では相関が有意ではないらしい (真ん中の図)

最後に一番綺麗な結果として, ワーキングメモリの大きな個人は2つの課題間の関連が綺麗に出ている。低い個人はあまり一貫していないようである (右図)。言語処理速度を統制して, 回帰分析をかけても, ワーキングメモリは2つの課題の成績と有意に関連していた。月齢を統制した結果は出していないが, 関連おパターンから見てもワーキングメモリの方がよりクリティカルな要因だろう。

最後に, 学業との関連である。見事な結果であるが, 予測的制御は実行機能(抑制, ワーキングメモリ, スイッチング)よりもより学業成績と関連していそうである。具体的には, 手がかりスイッチング課題の予測的制御の指標は, 算数, 読み, 推論を予測し, AX-CPTのほうは算数と読みを予測する。推論についてのみ, ワーキングメモリの固有の影響があった。しかし, あとは実行機能からの影響を統制してもということである。

実行機能と予測的制御の関係は非常に難しい。予測的制御を測定している課題は実行機能の課題であるし, おそらく予測的制御をできている子どもほど実行機能の成績も高くなるはずである。そうなった場合, 実行機能の成績を統制して残る予測的制御という変数の持つ意味は何なのだろうか。この研究では, 実行機能は制御の効率性の指標(制御ができているかどうか), 予測的制御はどうやって制御するかの指標と想定している。どうやってという方が大きな概念である以上, より予測力を持つとも考えられる。そのため、この解釈には注意が必要なようにも思う。ただ、貴重なデータであるし、今後も多数引用される素晴らしい知見だと思う。


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大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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