コロナ状況下での発達研究
更新が久しぶりになってしまいました。前回更新をした3月末から一気に状況が変わってしまって、世のお父さんお母さんは本当に大変な状況かもしれません。子どもたちも不安に思うことも多いと思います。一気に状況は変えられないので、こういう時こそ心の持ちような気もします。ちょっとした非日常を楽しんでいるお子さんもいるかもしれませんし、家族で過ごす機会が増えて今まで見えてこなかった家族の一面が見えるようになったかもしれません。世の中がネガティブな方向に進んでいるからこそ、進んでポジティブな心持ちでいられることが大事になってくると思います。
こうした状況下での発達研究を1つ紹介したいと思います。京都大学の森口先生のグループの研究で、まだ論文として投稿されている状態ですので、結果の解釈などは多少変わる可能性はありますが、データとしては確定しているものです。
Moriguchi, Y., Sakata, C., Meng, X., & Todo, N. (2020, May 28). Immediate impact of the COVID-19 pandemic on the socio-emotional and digital skills of Japanese children. https://doi.org/10.31234/osf.io/6b4vh
COVID-19が実際にもたらした状況として、保護者の仕事、子どもの通学や通園、(屋内にいるので)メディアの使用などが主にあげられる。こうした社会の大きな変化が子どもの社会情緒的スキルに与える影響は十分に分かっていない。例えば、イタリアやスペインの研究では子どもの精神健康上に悪影響があることが示されているらしい。森口先生らの研究でも、COVID-19下でも社会情緒的スキルが阻害されると予測している。逆に、メディアの使用に関しては促進効果を予想し、こうした状況下でのポジティブな側面にも焦点を当てている。
研究1
参加者はネット調査で保護者を対象に集めており、COVID-19前(2019年11月)とCOVID-19中(2020年4月28日-30日)を比較している。4-9歳の子どもを持つ保護者さんに回答をお願いしている。
調査項目は、回答者の個人または家庭に関する情報(子どもの年齢、性別、睡眠時間など)、社会情緒的スキル(Strengths and Difficulties Questionnaireという質問紙。情動的な問題(頭痛などの訴えがある)、行動問題(他児と喧嘩をする)、仲間関係(少なくとも友達が1人はいる)、衝動性(落ち着いて座っていられない)、向社会的行動(他の子供とおもちゃなどを共有する)の下位項目がある。詳細はhttps://www.sdqinfo.org)、社会生活(子どもの通学、外遊び、習い事、保護者の家以外での仕事時間)を測定している。
結果: COVID-19中の方が仲間関係の問題が増えていた。5歳と7歳においてのみ、COVID-19中の方が向社会性が高い傾向にある。この向社会性については、内集団への選好という点から解釈をしている。 COVID-19状況下で内集団への選好が高まった結果, 規範意識が強くなり、より集団主義的な振る舞いとなり、向社会的行動が増加した可能性を指摘している。
研究2
参加者はネット調査で保護者を対象に集めており、COVID-19前(2019年11月)とCOVID-19中(2020年4月28日-30日)を比較している。実験1の参加者に加えて0-3歳の子どもを持つ保護者さんにも協力してもらっている。
調査項目は、メディアの使用についてである。ここでいうメディアとは、テレビ, ビデオ、スマホ、タブレット、ゲームなどである。 このメディア使用に際しての子どものタッチスキルと用途の理解(Youtubeを見るため、音楽をきく、ビデオ電話をするなど)を検討している。
結果: 子どものメディア使用はCOVID-19中では長くなっていただけでなく、子どものタッチスキルと用途の理解ともにCOVID-19中では前に比べて向上していた。そして、こうしたスキルの上昇は子どものデメディアの使用時間を媒介していた。つまり、子どもがメディアを利用する機会が多くなることで、そのスキルが自然と上昇していったと考えられる。また、親の使用時間は影響を与えていなかった。
結果自体については皆様思うことは多々あるかもしれないが、こういった状況下で調査を実施してエビデンスを迅速に影響すること自体、本当にすごい。論文が通る頃には少しこの状況も落ち着いていることを願って、出版前に紹介することにした。子どもは、大人の思っているようにはこの状況を解釈していないかもしれしないし、デジタルメディアの例のようにいつの間にかスキルが身についているかもしれない。実は子供に限らず、大学生や大学教員の多くはこれを機にZoomなどのビデオ会議システムの使用に抵抗がなくなった方も多いのではないだろうか。ピンチはチャンス。そう思って、日々を過ごしていくしかないと思う今日この頃です。
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