日常における他者の行動の予測

Melzel, S., & Paulus, M. (2020). The development of the prediction of complex actions in early childhood. European Journal of Developmental Psychology, 1-23.

前回とはうって変わって、自分の専門領域に戻ってしまうのだが、今日は日常における他者の行為の予測に関する研究を紹介したい。他者の行為の予測というのは発達心理学でもよく取り上げられるトピックで、他者の意図や目標との関連や心の理論の基盤となっているなど乳児期から幼児期にかけて大きく発達することの1つとしてあげることはできる (これらの知見については多くのまとめ論文はあるものの, 拙著として手前味噌ではあるがhttps://www.j-ihd.com/bhd31-01.pdf)

「日常の」とわざわざつけているのは、今日紹介する研究では時系列の入った行為の連続を扱っているからである。特に非言語指標(視線など)を用いた他者の行為予測の研究では, 非常にシンプルな行為が研究対象となっている (Hunnius & Bekkering, 2010; Kanakogi & Itakura, 2011; Kochukhova & Gredebäck, 2010; Rosander & Hofsten, 2011)。例えば、おもちゃに手を伸ばすとかコップで飲み物を飲むなどである。こうしたシンプルな行為は予測される「先」が目の前にすでに存在している。なおかつ, 予測に際しては内省的ではなく, 知覚と学習をベースにしたimplicitなプロセスが働くことも想定されている。一方, 言語を介して内省的に他者が何をするのか予測するプロセスもまた同時にありえて, 2歳半頃にはこうしたプロセスに従事できることが知られている。この研究では, こうした内省的なexplicitなプロセスのさらなる解明を目指して、特に行為系列における予測を扱っている。

25名の成人と86名の3-6歳児を対象に研究を実施している。図は転載できないが, ある登場人物が出てきて, 分かれ道に差し掛かり, 目的(例:馬に餌をやりたい)に応じた道のどちらに行くのか, 参加者が選択するという課題である。道の先には, 目的に応じたものがおいており, 馬に餌をやる場合には分岐点で人参を先にとってから馬の元に向かうという道を選択する必要がある。目標は事前に参加者に言語教示で伝えられて, 参加者は2つの道のうち1つを選択する。この例のように、一度間に1ステップ挟んで目標に至る行為系列条件とそのまま目標に至る単純行為条件がある。

結果は至ってシンプルである。そもそも成人と子どもの間には有意な差があり, その差は行為系列条件が単純行為条件に比べると大きいようである。またそれぞれの条件ごとの成績が月齢とも相関している。

イントロは面白かったものの, それを検討する方法と対応する結果があまりにも素朴というかシンプルすぎて物足りない印象はある。ただ、この結果でも十分専門誌の論文として掲載されるくらい研究がなされていない分野であるのは間違い。同パラダイムが新しい研究へと発展することも十分にあり得るので, 今後に期待である。



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大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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