実行機能トレーニングにおける近転移
van Bers, B. M., van Schijndel, T. J., Visser, I., & Raijmakers, M. E. (2020). Cognitive flexibility training has direct and near transfer effects, but no far transfer effects, in preschoolers. Journal of Experimental Child Psychology, 193, 104809.
今日は, 実行機能課題に関するトレーニング研究を紹介する。日本でも少しずつ認知され始めている実行機能であるが, 海外では基礎研究は少し傍においやられて、トレーニング研究が盛んになっている。特に, 抑制課題を対象にしたトレーニングが多い (e.g., Blakey & Carroll, 2015; Kassai et al., 2019; Thorell et al., 2009; Traverso, Viterbori, & Usai, 2015)。ワーキングメモリトレーニングの結果と大きく差があるわけではなく, 基本的にはトレーニングを受けた課題や近い課題には良い効果を与えるものの(近転移する), 異なるタイプの課題には効果を及ぼさない(遠転移しない)という結果が出ている。
今日紹介する課題は, ルールの切り替え能力を測定するDCCS課題を対象にしている。DCCS課題は, 色と形の2次元のあるカードを最初色または形に基づいて分類してもらい, その後に別の次元でカードを分類するようにルールを切り替えることが求められる。この課題に関するトレーニング研究も複数存在する (Bohlman & Fenson, 2005; Espinet, Anderson, & Zelazo, 2013; Kloo & Perner, 2003; Moriguchi, Sakata, Ishibashi, & Ishikawa, 2015; van Bers, Visser, & Raijmakers, 2014)。京都大学の森口先生の研究では, パペットにルールを教えることでDCCS課題の成績が向上するという結果を示しており, 非常に面白いので追試・拡張研究が是非あればなあと思っている。それはさておき, 上記の研究は直後の同様の課題における成績の向上を検討しているものが多い。転移効果を検討している研究は多くはないが存在する (Espinet et al., 2013; Kloo & Perner, 2003; van Bers et al., 2014)。著者らの以前の研究では, DCCS課題の訓練中にフィードバックを与え, 刺激の異なるDCCS課題への近転移を確認している (van Bers et al., 2014)。ただし, この研究ではルール(色, 形)が同じなので, 切り替えそのものを学習したと言えるかどうかわからないとしている。端的にいうと, 今回の研究ではこの刺激もルールも違うDCCS課題への近転移を検討するのが実験1の目的である。実験2は, 実験1の追試に加えてワーキングメモリ課題や抑制課題への遠転移(これを遠転移と正式に呼べるかは別にしてこの研究の中では相対的に)を検討している。
実験1
参加者は3歳児51名で, 26名がフィードバックあり条件, 25名がフィードバックなし条件に割り当てられた。実験デザインとして, 事前DCCS, 訓練DCCS, 事後DCCS(1週間後)の3つを同じ参加児が行う。フィードバックあり条件は訓練DCCSのみでフィードバックを受ける。そして, 事前DCCSと事後DCCSは形と数で分類するの対し, 訓練DCCSでは色と大きさと異なるルールを用いた。
結果, フィードバックあり群はフィードバックなし群に比べて訓練DCCSの成績(65% v.s. 32%)と事後DCCSの成績(58% v.s. 28%)が良かった。
実験2
参加者は3歳児62名で, 35名がフィードバックあり条件, 27名がフィードバックなし条件に割り当てられた。このうち32名だけが他の切り替え課題(分類課題), ワーキングメモリ課題(Spin and Pots課題), 抑制課題(DayNight課題)を事前と事後のどちらのタイミングでも実施している(こちらは明記していないが同じ刺激だろう)。
結果, フィードバックあり群はフィードバックなし群に比べて訓練DCCSの成績(54% v.s. 15%)と事後DCCSの成績(51% v.s. 19%)が良かった。また, 他の切り替え課題(分類課題)とワーキングメモリ課題(Spin and Pots課題)は事前と事後で比較したところ, 成績が向上していた。ただし, この結果はDCCSのフィードバックのありなしとは関連がなかった。
ある意味, 予想通り, 切り替え課題のフィードバック訓練を行うと近転移は見られるものの, 遠転移は見られないという結果が得られた。別の切り替え課題にも転移していなかった点は少々疑問符だが, 後は綺麗な結果だと思った。たった少しフィードバックをしただけで, 1週間後の成績が良いというのはすごい話である。子ども側としては, 課題の符号化の時点ですでに異なる表象を持っているのかもしれない。個人的には, この結果を説明する理論的な背景が説明されていないのが物足りないところ。関連する研究は実施する予定なので, 自分的にもそうした理論的なところを詰めていく研究をしていきたい。
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