通学することが実行機能に与える影響

Brod, G., Bunge, S. A., & Shing, Y. L. (2017). Does one year of schooling improve children’s cognitive control and alter associated brain activation?. Psychological science, 28(7), 967-978.

今日は幼児期から児童期に移行する時期の子どもを対象に, 学校に通うことが彼らの実行機能に与える影響を検討した研究である。

学校に通うことが実行機能に与える影響はすでに検証されているらしく, 正の効果があるという研究もあれば (e.g., Burrage et al., 2008; McCrea, Mueller, & Parrila, 1999; Roebers et al., 2011), そうではないという研究も存在する (see Roebers et al., 2011)。これらの研究は行動指標であるが, このBrodらの研究では5~7歳児を対象になんとfMRIデータを収集している(かなり大丈夫かという感じがするが…)。児童期から青年期にかけてfMRIを使って前頭頭頂の神経回路が成熟してゆくことはすでに示されているものの, 5~7歳という時期に関してはEEGのデータしかないようである。そこで, 上記のように5~7歳の子どもを対象にfMRIを用いて, 学校に通うことが実行機能の神経基盤にどのような影響を与えるのか検討しましたということである。なんだか少し安直な気がするが…具体的には同じ年齢ですでに小学校に通っている子どもと幼稚園に通っている子どもを比較している(ドイツでは学校に行く前の9月30日までに6歳になった子供は10月から小学校に入学して義務教育を受ける必要があるのでMuss-Kind(ムス・キント)と呼ばれる。ただ日本と違い, 9月生まれの子どもは, むしろ就学を1年遅らせるケースが多く, むしろそちらの方が好まれる傾向になるようである。日本でいうと, 早生まれの子がついていけるか心配なので就学を遅らせているという感じでしょうか)。

ドイツの就学の特殊状況に則ったサンプル集めであるが, 60名の全ての子どもがpretest時点では幼稚園に通っていた。そして, 1年後のposttest時点では21名(mean age at pretest = 5.50 years, SD = 0.15)は一年生になり, 39名(mean age at pretest = 5.34 years, SD = 0.15)は幼稚園に通い続けているという状況であった。この研究においては, 小学校は机に向かう勉強が中心, 幼稚園は遊び中心の生活であることが書かれている。fMRIデータの収集については色々と工夫はしているものの, 結局のところかなりのサンプル数が落ちて, 1年生群が15名で幼稚園群が29名となっている。やはり, あの閉鎖空間で課題を解き続けること自体にかなりの我慢を要するのは確実である。

実行機能課題は, 以前紹介したハートと花課題と犬猫課題(fMRI用)であった。ハートと花課題では, ハートが画面の左右にでた方のキーを押す(一致条件), 花が画面の左右にでたのと反対のキーを押す(不一致条件), そのミックス(混合条件)という課題であった。犬猫課題は, go/nogo課題と同様の構造で, 犬が出たらキーを押す, 猫が出たらキーを押さないという内容であった。

結果に移る。まずハートと花課題についてであるが, 以下の4つのことが示されている。a) 1年生群は全体として幼稚園群よりも成績が良い; (b) 子ども全体としてposttestの方が成績が良い (c) 1年生群は1年を経て幼稚園群よりも成績の向上率が高い (d)こうした成績の向上は, 不一致条件や混合条件でよくに顕著であった。一方, 犬猫課題の方については, 子ども全体としてposttestの方が成績が良いという結果は得られたが, 1年生群と幼稚園群では大きな差はみられなかった。この行動データだけでも十分興味深い。次に, fMRIデータについてである。まずpretest時点では群間に差は見られなく, posttestのno-go試行に正しく反応できた際の脳活動にも有意な差は見られなかった。唯一, go試行に正しく反応できた際の脳活動に有意な差があり, 両側のdorsolateral prefrontal cortex(DLPFC)とposterior parietal cortex(PPC)の活動に群間で差が見られた。具体的に,  DLPFCについてはpretestの時点で1年生群が高かったにも関わらず, posttestではそうした差が見られなくなっており, 群間差が出ていたのはpretest時点での影響だとしている。一方, PPCについては学校の通うことでより活発に賦活するようになり, こうした活性の度合いとハートと花課題の成績に有意な相関を見出している(ただ, この結果自体それほど強いものではない)。また, 犬猫課題との相関は弱いようである。

考察として, PPCは注意の持続を司る箇所であり, 小学校での生活というのは机に座って授業に集中して耳を傾ける必要があることから,  小学校に通うことが実行機能(特に注意の持続)に良い影響を与えている可能性を唱えている。つまり, 実行機能は遺伝の影響を強く受けるものの, 教育環境という経験の影響を大きく受けることが示されたということになる。Psychological Scienceらしい大きなテーマの研究で非常に価値のあるデータであると思いつつも, 神経データに関してどれほど信憑性があるのかは追試的検討が必要かもしれない。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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