時間経過の認識の発達

Rattat, A. C., & Tartas, V. (2019). Age‐related changes in duration production for familiar actions. British Journal of Developmental Psychology.


この研究では, どれくらいの時間が過ぎたのかに関する認識の発達を検討している。この研究分野では「ある刺激」が「どの程度の時間」(比較的短い時間単位) 出現していたかを測定するために, 刺激が数秒間提示された後に同じ時間だけキーを押し続ける方法をとってきた。他には, 10秒がどの程度かをキー押しで回答してもらう産出課題や, ある時間に対して3秒や1分というようにラベルづけをする言語ラベル課題などが時間認識を探る課題として開発されている。

特に, 本研究では, 日常よく経験するであろう出来事または行為(飲み物を飲む, ジャンプをする)に要する時間がどの程度か子どもと大人の認識を問うている。方法としては, 産出課題を用いており, 当該の行為が行われる時間分だけキーを押すように参加者は求められる。実際の行為が以下のものである。                                           Six short actions (spit a pip out, sneeze, post a letter, blow a candle out, jump, and hang a coat up) Six longer ones (have a drink, erase a blackboard, applaud, fold a towel, blow a balloon up, and blow one’s nose)                                                                                                                                          ここでいう長い, 短いというのは先行研究で8歳児と大人に「1」(とても短い)から「5」(とても長い)のうちどれかを判断してもらった結果をもとに分類している。

参加児は6歳児17名, 9歳児18名, 成人18名の計53名である。結果は, かなりクリアで6歳児でのみshort actionとlonger actionの区別がなされていなかった。また, short actionに要する時間は年齢が上がるとともに, 短く産出されるようになっていた。最後に, 産出された時間の変動が年齢が上がるとともに小さくなることも示された。では, 6歳児にとっては今回判断しているような行為は全て同じくらいの時間を要するものだと認識しているのだろうか。実は, Rattat & Tartas (2017)は, 5歳児でも同じくらいの時間を要する行為をペアにする課題の成績は良いことを示している。Friedman (1990) でも, ある出来事間の時間の長さがどの程度かは幼児期からある程度判断することができるという知見を示している。これらのことから, 幼児期では, ある出来事とある出来事を比較するような相対的な時間経過の認識の仕方をする可能性がある。そのため, 今回の研究で用いたような産出課題は難しかったのかもしれない。さらに, 考察ではなぜ6歳児のshort actionの時間認識が長いかについて考察している。

理論的な貢献としては, 今までの研究では時間がどの程度持続するかという「長さ」の側面にのみ焦点があてられてきたのに対し, 本研究は日常を構成する単位として側面に着目している。つまり, ある刺激が提示されるというよりも, ある行為や出来事に関して日常積み重ねた経験が時間の認識に及ぼす影響を検討している。そうした日常を構成する単位の「長さ」を正確に理解し始めるのは, 児童期以降であることを示した研究と言えよう。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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