新奇の課題学習における言語の役割

Van't Wout, F., & Jarrold, C. (2020). The role of language in novel task learning. Cognition, 194, 104036.

日常生活においては新たなスキルを獲得する機会はたくさん存在する。ここでいうスキルとは運転の仕方を学ぶ、料理の作り方を学ぶ、新しい仕事の仕方を学ぶなど手続き的な要素を含むものがあたる。今日紹介する研究は、こうした新しいスキルの学習と言語の関係を検討している。

言語の役割を検討する際に重要な文献をいくつ紹介する。Kray, Eenshuistra, Kerstner, Weidema, & Hommel (2006) は、4歳児を対象に特定の音が出た後にあるキーを押すというようなaction-effect associationsの学習が言語ラベリングによって促進されることを示している。この言語ラベリングの効果は「練習」によって消えないことが報告されている。 一方、Van ‘t Wout, Lavric, & Monsell (2013) は、実行機能の切り替え機能を測定するスイッチング課題における言語ラベリングの音韻類似性効果を検討している(この課題と効果の説明は省略させてください)。この研究では、言語ラベリングは効果を持つとともに、課題経験を積むと音韻類似性効果がなくなることが報告されている。しかし、重要なのはこの課題を始めたばかりの時はこの音韻類似性効果があったという点である。つまり、この切り替え課題を遂行するうえで依拠している表象の性質が、言語的なものから手続き的なものへと移行している可能性がある。

こうした可能性を検討するために、新規な試行錯誤型の課題を作成し、言語と非言語の2重課題を同時に実施した。実際の課題では、画面中央に写真(5種類から)1枚が提示されるので、それに応じた正解のキー(5つから)を選ぶというすごく単純な課題である(Figure1)。この5種類の写真とキーという組み合わせを学習するのに200試行実施し、それを9セット行うために全部で1800試行実施している。この課題をしながら、「da da da da…」と言わせる構音抑制をする条件、同じリズムで足踏みをし続ける足踏みをしてもらう条件、何もしない条件の3つが行われる。気が狂いそうになる実験である。そして、以下の操作の仕方が非常にシンプルだが、なるほどと思わされるところである。著者たちは、上記の学習課題を行う際に言語が初期段階でのみ必要であると予想している。そのため、

課題の前半に構音抑制をかけ、後半に足踏みという条件

課題の前半に足踏みをしてもらい、後半に構音抑制をかける条件

課題の前後半で妨害課題がない条件

の3つを用意した。参加者はすべての条件を実施している。

実験1は36名の成人を対象としている。まず, 手続きでは省略しているが、構音抑制と足踏みによって妨害課題の難易度が変わらないことを確かめている。そのうえで、メインの結果として、エラー率について妨害課題の種類(構音抑制、足踏み、妨害なし)とその順序(前半、後半)の交互作用が有意であったことを報告している。詳しく見てみると、前半に構音抑制を行なった場合のエラー率は足踏みに比べると高く、後半ではその差は有意傾向であった。また、構音抑制を行なった場合のエラー率は妨害なし群に比べると高い傾向は前後半とも同じであった。しかし、こうしたエラー率のパターンは反応時間では見られなかった。

実験1の問題点としては、課題の後半の成績が必ず前半に左右されるということである。そのため、上記の後半に関する分析結果の解釈が少し難しい。そこで、実験2では条件として、 

妨害課題なし→構音抑制、妨害課題なし→足踏み、構音抑制→妨害課題なし、足踏み→妨害課題なし

の4つの条件を実施した。

実験2は28名を対象に実施しており、先の4つの条件を2回行なっており、計1600試行実施している。結果、エラー率について妨害課題の種類(構音抑制、足踏み)とその順序(前半、後半)の交互作用が有意であった。詳しく見てみると、前半に構音抑制を行なった場合のエラー率は足踏みに比べると高く、後半ではその差はなかった。しかし、こうしたエラー率のパターンは, 実験1と同様に反応時間では見られなかった。実験2ではもう1つ分析をしている。下の左図からもわかるように、刺激が出た試行ごとの誤答率を算出して、構音抑制と足踏みとを比較している。著者たちが予想したのは、1番はじめの試行ではaction-effect associationsを形成するために言語はそれほど使わずに(試行錯誤学習なので、一番初めに正解が出ることはほとんどないから)、数試行経るうちに言語で関連づけようとする。さらに、action-effect associationsが形成されてしまえば、言語への依存度はだんだんと減少してゆく。つまり、構音抑制と足踏みとを比較するとU字型のようなパターンになるのではないかと予想した。実際の結果も、割と綺麗にU字型になっていることがわかる。

これらの結果は、ワーキングメモリ理論や課題セットコントロールの研究とも一致している。また、正答率のみで結果が出て、反応時間では出なかったことの考察も面白い。構音抑制は、action-effect associationsを形成する能力には影響を及ぼすものの、すでに出来上がったaction-effect associationsを利用することや検索する能力に影響を及ぼさないと解釈している。つまり、言語はaction-effect associationsを形成することには深く関わっているが、一度出来上がってしまえば検索などには関係しないのかもしれない。ただし、言語がaction-effect associationsを形成することのどのような側面に関係しているのかは今後検証するべきとの限界点も述べている。

著者らはこのパラダイムを子どもを対象に応用するつもりのようであり、続編が楽しみである。私の研究にもかなり関わるところなので、ぜひこの研究は参考にさせてもらいたいと思う。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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