他者から学ぶ自己制御

Haimovitz, K., Dweck, C. S., & Walton, G. M. (in press). Preschoolers find ways to resist temptation after learning that willpower can be energizing. Developmental Science

今までも何回か記事で扱っているが、幼児期の自己制御は青年期における職業、健康、犯罪率などを予測することが知られている。社会経済的な地位などを統制すると、効果量が限りなく小さいという報告があるものの (Watt et al., 2018)、そうした報告に対する意見論文もすでに2本ほど出ている (e.g., Michaelson & Munakata, in press)。

では、この幼児期の自己制御をどのようにすれば向上させることができるのかということが関心の的となる。実際、実験室での介入研究であったり、カリキュラムを作って介入プログラムとして実施するという大掛かりなものまであったりする (Diamond, Barnet, Thomas, & Munro, 2007;Diamond & Lee, 2011; Lillard & Else-Quest, 2006; Rybanska, McKay, Jong, & Whitehouse, 2018; Sasser, Bierman, Heinrich, & Nix, 2017)。結果はうまくいったというものもあれば、うまくいかなかったというものもあり、玉石混淆という状態であろう。この介入研究の効果について今日は触れない。

今日、紹介する研究は上記の介入研究を能力向上型だと呼んでいる。つまり、自己制御能力を直接伸ばすことで、そのパフォーマンスを向上させる介入研究だと考えている。一方、著者らは自己制御という状態やその概念に関する子どもの理解を深めることで、実際に自己制御のパフォーマンスを向上させようとしている。というのも、この論文の著者にマインドセットで有名なCarol Dweckが入っていることを踏まえると、納得がいく。自己制御との関連でいえば, 意思の力(willpower)が限られていて、簡単に枯渇すると考えている人は, 困難な課題に直面した時に自己制御が難しくなることが報告されている。

本研究では、子どもでこうした自己制御に関する理解を絵本を通して学習してもらうという試みをしている。そして、そうした学習が実際の子どもの自己制御的行動を促すのかどうかを検討している。特に、絵本では満足遅延課題において我慢することが大変だけれども、頑張って我慢できているというキャラクターのお話を読んでもらう。この大変だけれども、頑張れている、もう少し頑張ろうというところが大事なようである。

実験1は4~5歳43名参加した。参加児は我慢推奨群と統制群に割り振られた。我慢推奨群の絵本で使われている教示を載せておく(e.g., “Lucy waited and waited and it was hard. But the longer she waited, the stronger she felt!” ‘I can keep on going,’ Lucy thought. ‘If I can wait a few minutes, then I can keep waiting.’”)。また統制群の絵本では、待つことにネガティブな印象を与えないポジティブなストーリーを用いている。この絵本を読んだ後に、マシュマロ課題を実施している。結果、我慢推奨群ではマシュマロ課題中に多くの待ち方略をとり、有効な方略を実施することに時間を費やし、待ち時間が長いことが示された。

実験2は4~5歳43名が参加した。参加児は我慢推奨群と統制群に割り振られたが、統制群の絵本のストーリーが変更されている。統制群では、シンプルに待つことができた人のお話を聞いている。つまり、待つのが大変で、大変だけど待つことができているというニュアンスが全く含まれていないという違いである。結果は、実験1を追試できており、 我慢推奨群ではマシュマロ課題中に多くの待ち方略をとり、有効な方略を実施することに時間を費やし、待ち時間が長いことが示された。

結果、著者らの予想通り、自己制御に対する他者の考え方や信念を提示することで、子どもの自己制御的行動が促進されることが示された。この研究では、子どもの自己制御に対する信念が変わったかどうかを測定できていないので、信念自体を操作できたかどうかわからないが、マシュマロ課題の結果は条件間で大きな違いがある。様々なメカニズムは考えられうるが、それは今後著者らのグループが追求してゆくであろう。

この研究を踏まえると、マシュマロテストで測定されるような自己制御「能力」とは何なのか注意して考える必要がある。つまり、この課題自体は純粋な「能力」を反映しているわけではなさそうである。今回の実験操作は、子どもたちの自己制御「能力」を向上させたわけではない。どちらかというと、自己制御「能力」を最大限発揮できるような心の構えであったり、状態を整えたということになる。つまり、「能力」があることと、それを実際に最大限使うのかもしくは使えるのかには大きな違いがありそうである。今後はこうした信念の変化がもっと純粋な記憶課題や認知課題にも効果を及ぼすのかどうかは知りたいところである。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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