集団バイアスと協力
McAuliffe, K., & Dunham, Y. (2016). Group bias in cooperative norm enforcement. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 371(1686), 20150073.
自らが属する集団にポジティブな態度を示すこと, 選好を示す傾向を集団バイアスと呼ぶ。こうした集団バイアスは, 乳幼児期の早い時期から現れることが示され, 他者とともに協力して何かを決定する場面では強い影響力を持つことがわかっている。では, どのようなメカニズムで他者と協力する際に集団バイアスが生まれるのだろうか。
1つは, 規範による説明である (他者との協力を維持するためには, 規範から逸脱するものを罰する必要がある)。もう1つは, 内集団の成員への選好による副産物であるという説明である。このレビューではどちら, またはその組み合わせの説明が実際のデータを説明するのか検討している (個人的には説明のレベルが違うような気がするけれども)。
たとえば, 規範の逸脱を考えると, 集団バイアスが規範により説明されるのであれば, 特に内集団の成員による規範の逸脱が問題視されると考えられる。逆に, 内集団の成員への選好により説明されるのであれば, 内集団の成員が規範から逸脱したとしても許されることが多いのではないかと考えられる (最後通牒ゲームや集団式独裁者ゲームで検討)
他にも, 黒い羊効果に着目する。黒い羊効果は,能力が劣っていると判断される人は, 同様の特徴を持つ外集団の成員よりも嫌われることを指す。この効果がもし他者との協力との失敗のような文脈で見られれば, 選好説では説明できず, 規範説にfitしている。特に規範など文化的に形成されるものについては成人だけでなく成人だけでなく, まだ文化的な経験が乏しい子どもも対象にしてレビューを進めるべきと考え, 成人と子どものレビューをしている。
集団バイアスと分配行動 (発達的知見)→上記の説を直接検討する研究ではない
3~8歳を対象に, 自分と遊びグループ・クラス・学校が同じ内集団のパートナーおよび自分と遊びグループ・クラス・学校が異なる外集団のパートナーと向社会的行動, 分配行動の課題をを実施した。すると, 全体ととして内集団への分配が多く, そうした傾向は年齢とともに上がっていった (Fehr, Bemhard, & Rockenbach, 2008)
独裁者ゲームでは, 小学校2年生, 小学校6年生, 大人を対象としたところ, 小学校6年生, 大人で内集団への分配が多く見られている。また, パートナーの過去の行動に関する情報を与えたところ, 大人では内集団バイアスが減じるにも関わらず, 小学校6年生ではそうしたパターンは見られなかった (Gummerum, Takezawa, & Keller, 2009)
分配行動場面における集団バイアスと規範(成人の知見)
あるゲームで寄付行動をした人は, していない人が内集団に所属していた場合に罰する可能性が高くなる (Shinada, Yamagishi, & Ohmura, 2004)
最後通牒ゲームにおいて, 相手が内集団の成員だと多く配分するとともに, 相手からの配分にOKを出す額を高く設定することが示された (McLeish & Oxoby, 2011)
→この2つは規範説を支持。しかし, 最後通牒ゲームにおいて内集団の成員(実際の大学の友達)からの不平等な配分を許容してしまう(Valenzuela & Srivastava, 2012) という知見もある
集団式独裁者ゲームでは, 内集団の成員が不当な配分をされていた場合に, 配分した側に罰を与える。しかし, 内集団の成員が不当な配分をしていたとしても, 外集団の成員と比べて罰することはなかった (Bernhard, Fischbacher, & Fehr, 2006)
実験室場面ではなく, 実際の仲間集団を使った同様の実験でも同じような結果が得られている (Goette, Huffman, & Meier, 2012)
→これらん研究は選好説を支持
分配行動場面における集団バイアスと規範(発達的知見)
3歳児はものの使い方や遊び方を実験者からある方法(daxingだよといってものの使い方を実験者が見せる)で教えてもらう。しかし, パペットが異なる方法でものを用いると子どもから批判が入る。この研究ではdaxingというのが規範となっている (Rakoczy, Warneken, & Tomasello, 2008) さらにモラルからの逸脱に対しては誰が行っても批判するが, 慣習的な規範からの逸脱の場合は内集団の子どもへのみ特に批判を集めるようになる (Schmidt, Rakoczy, & Tomasello, 2012)。
他者と協力が必要な分配行動場面では…
6歳から10歳を対象に, 最後通牒ゲームを行なったところ子どもたちは公平な分配を申し出, 不公平な分配を拒否する傾向にあった。またこうした傾向は, パートナーがどの集団に属しているかということに調整されなかった (McAuliffe & Dunham, 2017)
6歳から8歳を対象に集団式独裁者ゲーム(子どもは分配している様子を見ている)を実施した。6歳児と8歳児の両方で, 分配を拒否した人のうち内集団よりも外集団に属していた方をより罰する傾向が高いことが示されている。また, 6歳児でのみ内集団の成員にネガティブな影響を与える不公平な分配をした人を罰する傾向が高いことが示された (Jordan, McAuliffe, & Warneken, 2014) →選好説を支持
大人の知見を加味すると, 現時点では選好説が優勢のようである。ただし, 規範説でしか説明できない部分もあり, 両者に焦点を当てる必要がある。
さらなる検討課題が以下
1. 両者が葛藤する場合に, 規範よりも集団バイアスを優先したり, 集団バイアスよりも規範を優先したりと重み付けが状況によって異なる
→ 直接関わる2者間で公平な分配を望むかという状況(最後通牒ゲーム)と直接関わらない他者間で公平な分配が起こらないように介入する状況(集団式独裁者ゲーム)では, 集団バイアスと規範のどちらを優先するかが異なってくる
2. 集団の性質が規範から逸脱したものへの対処に影響を与えることがある
→ 内集団の成員が規範から逸脱すると規範を押し付けるという知見があるが, この集団がリアル(実験室で作られたものではなく)な場合はこうした現象が見られなくなる。
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