傍観者効果

Plötner, M., Over, H., Carpenter, M., & Tomasello, M. (2015). Young children show the bystander effect in helping situations. Psychological Science


 社会心理学の分野で, 傍観者効果という用語がある。

 傍観者効果とは, ある事件や出来事に対して, 自分以外に傍観者がいる場合に行動を起こさなくなる心理のことで, キティ・ジェノヴィーズ事件に興味をもったDarley & Latane (1970) が実証した。

 今日, 紹介する論文では5歳児に傍観者効果が見られるのかを検証した。さらに, 傍観者効果を引き起こす要因は, 社会的参照, 責任の拡散, 他者の前に出る恥ずかしさの3つがあるといわれており, 5歳児の場合はどの要因が大きいかを検討した。

 なんとなく調べられてそうなテーマだと思ったが, 1970年の研究以降ほとんど検討されていないらしい。

 参加児は, 5歳児60人で, 3つの条件を設定した。どの条件でも絵を描く作業をしている間に, 実験者が絵の具のカップを倒してしまい困るという状況である。しかし, この実験者はあらかじめ「こぼしたときに備えて」と言って, タオルを近くに置いているので, 最悪手伝わなくともよい状況でもある。傍観者の役目の子どもは, 実験の意図自体は伝えられないものの, 話さないこと, 絵を描き続けること, 実験者と目を合わせることがあらかじめ伝えられた。この実験の一番難しいところのように思う。上記の条件を満たしていたため, 傍観者として成立していることを著者らは担保している。

条件は以下の3つで、

1つ目は, 自分1人だけで他者が困っているのを助ける状況

2つ目は, 傍観者が2人いる状況 (傍観者も絵を描いている)

3つ目は, 傍観者の机の周りには囲いがされていて, 彼らは助けたくても助けられない状況

 指標としたのは, 助けたかどうか, どの段階 (実験者がそれとなくアピールするところから明示的にアピールする段階まで) で助けたのか, 傍観者を見た回数を検討した。さらに, インタビューで, 困っていることに気づいていたか, それが助けるべきだったか, どうやって助ければよいのか理解できていたかなどを質問した。

 結果は, 1人条件と傍観者囲い条件で95パーセントが援助を行い, 傍観者条件では50パーセントであった。また, 1人条件においては, 残りの2条件よりも早い段階で助けた。また, 傍観者を見た回数は, 囲いのありなしで変わらなかった。さらに, インタビューの結果では, 傍観者条件の子どもの11パーセントしか自分が助けるべきだったといわなかったらしい (残りの条件では, 50パーセントくらい)。また, この条件の47パーセントの子どもは, 助け方がわからなかったと言ったようである。

 結果, 見事に傍観者効果が実証され, 社会的参照, 他者の前に出る恥ずかしさが要因ではなく, 責任の拡散が傍観者効果を引き起こしていることを示す証拠も得られた。

 このグループでは, 援助行動をいかに行うかを今まで検討してきただけに, 援助行動をいかに行わないのかという問い自体は面白いと思う。

 しかし, 若干, 違和感を感じるのは, 大人を助けるという状況である。1人で助ける条件でも, 結果を詳しくみると, 助けるまでにかなりの時間がかかっている。5歳からすると, 「自分でやれよ」と思っていて, なおも実験者がしつこく言うので, 「仕方ないやるか」という感じだろうか。Darley & Latane (1970) では, 一緒に議論していた1人が発作を起こすという状況を設定しており, 今回とは事の重大だが全く異なる。また, 今回は, 会話なしでやっているが, 会話をしてもよいという条件でやってみるとどう変わるのかも興味がある。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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