時間について
Allman, M., & Mareschal, D. (2016). Possible evolutionary and developmental mechanisms of mental time travel. Current opinions in behavioral sciences.
人間が「いま, ここの世界」を超えて, 過去や未来について考えることができるのは進化的に見てもかなり重要な能力であると考えられています。
過去や未来について考える際に, 「いま, ここの世界」とは何か?ということを考える必要が出てくる。「いま」っていつなの?3秒?8秒?という議論があるなかで, この論文では1つの定義として固定された「いま」はなく, 意識されているいまこの瞬間(流れをもつものとして)として考えている。ここには, ある行動を引き起こす内的または外的なcueも含まれている。つまり, 思考が連続性をもっている限りいまだとしている。たとえば, お腹がすいて(内的なcue)冷蔵庫に食べ物を取りに行くのは「いま、ここ」の世界ということになります。
つまり, 「いま, ここの世界」を保つためには内的状態や外的なcueを意識下に保持しておかなければならない。そのためには, ある行動を引き起こすであろう時空間的性質をもつ情報に着目し, 理解する必要が出てくる。ここで, 時間と空間が合わさっているのは両者が密接に関係することを示す成人を対象とした研究があるからである。発達的に両者が重なるのは, 8~10歳であることを示す研究もある。
では乳児はどうだろうか。面白いのは, 乳児が生まれ持ってリズムに敏感であるというところである (Phillips-Silver & Trainor, 2005)。6ヶ月から12ヶ月の子どもは, 時系列の知覚へのsensitivityを高めていくことが行動レベル, 脳科学のレベルから示されている。このさらに, 時系列の知覚へのsensitivityは, 出来事の時系列的な階層構造へのsensitivity (これらは, 他者の意図や目標の発見に役立つ)や歩きはじめと同時に出現する。そして, 日々自分とはテンポの異なる他者と関わるなかで, 他者の意図や目標に期待をいただくようになる。しかし, 大枠として人生はじめの1年間の知覚および認知発達は「いま, ここの世界」から抜け出ておらず, 比較的短い時間軸の中で成立する。
実際, 動物はリズムの産出はできるけれども, 外的な拍子からリズムを抜き出したり, 体を同期させたりすることはできないのかもしれない。近年の研究では, チンパンジーがリズムに同期できることも知られてきている (Hattori, Tomonaga, & Matsuzawa, 2013)。これは重要で, リズムは発達の基礎になる可能性は十分にある。
また, 筆者たちは過去や未来のことについても少し触れている。彼らは, メンタルタイムトラベルが心の理論やピアジェの保存の法則の理解に必要であると考えている。特に, 筆者たちはメンタルタイムトラベルの不全が自閉症児者にあることが, 彼らのsocial interactionの欠如や常同行動の出現と関連すると考えている。この仮説自体, 魅力的ではあるもののメンタルタイムトラベルが心の理論ですりかわっただけという風に考えるのはあまり生産的ではない。むしろ, 「リズムから時空間表象へ」という時間を軸とした発達の流れを整理しながら, 障害を位置づけていく必要がありそうである。個人的には, 両者をどう繋いでいくのかというところが今後の争点になってくるところかなと思う。あとは, 言語発達との関わりなども考えられると面白いかもしれない。
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