模倣の柔軟性
近年, 幼児が「どのような時」に「どのような行動」を模倣するのか・しないのかというテーマで多くの研究がなされている。このような研究の背景には, 文化的学習の発達の謎を解くことが念頭に置かれている。そのなかで効率的ではないにもかかわらず, すべての行動を模倣してしまうという過剰模倣という現象がある。
特に, 過剰模倣の対象となる行動としてritual actionに注目している。ritual action は物理因果的な関係ではなく, 社会的な慣習によって取り決められている行動のことである。一方, ritual action とは異なる行動としてinstrumental actionがある。instrumental actionとは目標志向型の行動で, 原則は目標に対して物理因果的な行動の積み重ねにより達成される。この行動の場合, はじめて学習する人でも目標がわかれば再現することができる。両者は, 行動系列だけを見ても区別できず, 状況に依存する。たとえば, ろうそくに火をつけるという行動は, 暗闇でものを探すためのinstrumental actionであると同時に, 誕生日を祝うritual actionでもある。2つの行動系列を区別するパラダイムとして, 目的を達成するためには非効率的な行動をどれだけ忠実に模倣するかという方法がとられている。この方法では, 目標を達成するためには非効率であると理解しながらも, 忠実に模倣する場合はritual actionとして考えている可能性があるということになる。
たとえば, Herrmann, Legare, Harris, & Whitehouse (2013) では, 3歳児に目標を達成するために非効率な行動を見せた場合の模倣の仕方に着目している。この研究では1人よりも, 複数人が同じ行動系列を実施している動画を見る方が忠実に模倣することが示されている。また, 複数人がバラバラにではなく同時に行動しているときの方が忠実に模倣することもわかっている。つまり, 幼児がritual actionとして判断する材料として「人数」と「同時性」を大事にしていることがわかる。この解釈として, 忠実に模倣をする背景には, その行動を実施する社会的集団に加入することへの動機付けがあると考えているようである。その見解を支持する研究として, Watson-Jones, Legare, Whitehouse, Clegg (2014) では社会的排斥をプライムされた群では, より忠実に模倣する行動が増加することを示している。
これらの慣習と言われる行動が慣習としてどのようにして獲得されるのかはすごく関心があるところであるし, 幼稚園の決まりがどうして決まりとして成り立つのかを考えるうえで重要となるに違いない。そして, その決まりから外れてしまう子どもの行動を理解することにも役立つ研究分野である可能性がある。
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