実行機能のトレーニング効果の年齢差
Karbach, J., & Kray, J. (2009). How useful is executive control training? Age differences in near and far transfer of task‐switching training. Developmental Science, 12(6), 978-990.
実行機能のトレーニングが持つ効果 (近転移と遠転移) の年齢差を検討した研究である。児童 (52名)、大学生 (56名)、高齢者 (56名) を対象に、切り替え課題で言語的ストラテジーを使用するように促す群、言語的ストラテジーを促しつつ訓練課題中に使用される刺激を多様にする群 (変動を大きくし、一般化を促す) などを設定し、その転移効果を検証している。
もう少し詳細に説明すると、前文で4群設定されている。まず、4群とも訓練前は単純な認知課題A or B(例: A. 提示された画像が車か飛行機かをなるべく早く答える, B. 提示された画像で何台車か飛行機があるかをなるべく早く答える)とそれらの2つの切り替え課題を実施する。次に、以下のような訓練をする。
①単純な認知課題 (課題Aを連続して行い、次のブロックで課題Bを実施)
②切り替え課題 (切り替え試行とそうでない試行の2つを含むMixing phaseのみ)
③切り替え課題+切り替えcueが出た時に課題目標を言語化
④切り替え課題+切り替えcueが出た時に課題目標を言語化+刺激をセッションごとに変える (6ブロックに1回刺激が変わる)
①~④は17試行を24ブロック、トレーニングを実施する
近転移についての結果は以下である
・②は①よりも切り替え課題のmixing cost, switching costが低くなっている (d = .88–2.12)。特にこの効果は児童と高齢者で特に大きい。
・②と③には大きな違いは見られなかった
・②および③と④を比較すると、大学生では刺激を変える効果が出ているにも関わらず(d = 1.55)、児童では効果が減少するという結果が得られた (d = .65)(この効果はmixing costのみ)
遠転移についての結果は以下である
・②, ③, ④に大きな違いが見られなかったため、これらをまとめて分析している。
・ストループ課題、WM課題、流動性知能に対しては訓練効果あり (年齢との交互作用なし)
・効果量は近転移に比べれば小さいものの、比較的高かった(児童: d >.60, 成人: d >.70,高齢者: d >.40 )。
これらの結果から、まず切り替え課題を訓練することで特にmixing costの減少に効果があることが示された (単に2つの単純な課題を訓練する条件と比べて)。特に、この訓練効果は児童と高齢者で大きかった。これは、児童と高齢者のmixing costがもともと高いので、伸びしろがあるという解釈である。
さらに、目標を言語化する訓練は, 切り替え群に比べて近転移や遠転移に+αの効果がなかった。可能性として、②群において指示されずとも言語化をしていた、または訓練後の切り替え課題でも言語化方略を用いてしまい反応時間が長くなった、のどちらかを指摘している。次に、刺激をセッションごとに変える効果である。大人ではより近転移の効果が見られたにも関わらず、児童ではこうした効果は見られなかった。筆者たちは異なる刺激を多く処理するためにはワーキングメモリが必要であり、児童ではその容量が足りなかったとしている。特に、この研究では言語化方略と掛け合わせているため、余計に複雑な課題になっていた可能性がある。最後に、切り替え課題の訓練が抑制やWMなど別の課題にも遠転移することが示された。しかもこの効果が年齢によって調整されなかった。
ただし、遠転移についてはのちのメタ分析でもその効果量の低さまたはその効果がほぼゼロに等しいことが指摘されている。そのため、注意は必要であるものの、この研究でこうした結果が得られたのは事実であるので、効果が見れれなかった見られなかった他の研究との比較を行なっていく必要がある。
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