子どもの抑制課題の捉え方
Simpson, A., & Carroll, D. J. (2018). Young children can overcome their weak inhibitory control, if they conceptualize a task in the right way. Cognition, 170, 270-279.
Vygotsky (1962) は, 子どもが課題をどのように表象するのかが彼らの課題パフォーマンスにも影響を与える可能性に触れている。最近では、 Apperly & Carroll (2009) や Kloo, Perner, & Giritzer (2010) もその可能性を指摘しているらしい。ただ、実証研究がないので、この研究がやりましたということらしい。
彼らが問題にしているのは優勢反応がもともと優勢なのはではなく、課題を通して優勢になるという点である。たとえば、抑制を測定する昼/夜課題では、昼のカードに対して「昼」と答えるのを我慢して「夜」と答え、夜のカードに対して「夜」と答えるのを我慢して「昼」と答える必要があるということである。ただし、日常生活のなかで子どもが昼のカードを見て、常に「昼」というかというとそんなことはない。当たり前のように聞こえるが、実験者が昼または夜のカードに対して、「夜」または「昼」という反応を求めているから優勢になるのである。逆にいうと、子どもの抑制課題への捉え方を変えれば、抑制課題の成績が上がる可能性もあるのである。
実験1では、教示の仕方を変えている。1つの群では、「もし私が昼といえば夜のカードを指差して、夜といえば昼のカードを指差しね」という教示をする。もう1つの群では、具体的な名称を出さずに「私がいった方と違う方を指差してね。だから、昼といえば違う方を指差してね、夜といえば違う方を指差してね」と教示する。後者の教示の仕方は、ワーキングメモリへの負荷を低減するとしてDiamond (2002) も行なっているようである。4歳児を対象にした実験1は見事にこの教示の仕方では違いがないことが示された。つまり、筆者たちの予想とは異なるという結果が得られた。
実験2では、異なる課題を用いている(その理由は本文を参照)。2カード課題では、実験者が2つのカードのうちを星を置かなかった方を指差すように求められる。教示は、「もし私が昼のカードに星をおけば夜のカードを指差して、夜のカードに星をおけば昼のカードを指差しね」となる。4カード課題では、実験者と子どもの両方に2つのカードが用意されている。そして、実験者は2カード課題と同じようにマークを置くものの、子どもはマークを置かれていない自分のカードを指差さなければならない。この2つの課題の肝は、「子どもがマークを置いていない方を指差せばOK」という風に課題を捉えられると、抑制課題の成績が上がると考えている点である。結果は予想通り、2カード課題の成績が4カード課題の成績より良いことが示された(4カード課題の成績は実験1の昼/夜課題と同じくらい)。
実験3では、実験1と実験2の組み合わせような内容である。実験3の肝は、カードの配置である。1Rule条件では、「私が指差したのと同じ方のカードを指差してね。もし〜」と教示する。つまり、実験者の真似をするように促される。2Rule条件では、「もし私が昼の方を指差したら夜のカードを指差して、夜のカードを指差したら昼のカードを指差しね」と教示する。この条件ではカードの並びが1Rule条件と同じなので、直接は促されていないものの、実験者の真似をするという風に課題を捉えなおすこともできる。Standard条件は、カードが縦並びになっているので、実験者の真似をすることは難しい。結果、1Rule > 2Rule > Standardという成績順となった。つまり、2Rule条件では、Standard条件とカードの並びを変えただけだが、自発的に実験者の真似だと課題を捉え直したものがいた可能性が高いという解釈をしている。この課題の捉え直しものをしたものとしなかったものの違いに関しては、筆者は課題へのメタ認知の違いだとしている。つまり、実験者の真似をした方が課題が簡単になると思えた子どもはそういった捉え直しをしたはずだし、そういう風に思わなかったものは普通に課題を実施していたということである。
課題の捉え方というよりも、課題で本来求められている以外の認知負荷の低い方略を見つけ出し、それを使って、認知課題を解けるかということにも思える内容であるが、確かに今まで検討されてこなった内容である。筆者たちは抑制課題以外でもどのようのことが適用できるかどうかに関心があるようなので、そのうち次作が出るかもしれない。
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