小人問題

Verbruggen, F., McLaren, I. P., & Chambers, C. D. (2014). Banishing the control homunculi in studies of action control and behavior change. Perspectives on Psychological Science, 9(5), 497-524.


今まで紹介している研究の多くは、自らの思考や行動を制御する認知機能である実行機能というワードを含んでいる。この実行機能について説明する際に、頭の中の小人が様々な命令を下すことで思考や行動の制御が可能となるという発想である。この説自体、証明のしようが無いし、制御がどのように起こっているのかをブラックボックスにしてしまう

そこで実行機能を細かく分解する研究が主流となった。Miyake et al. (2000)はその1つで抑制、切り替え、更新の3つの下位機能に分類している。しかし、この研究では制御がどのように起こっているのかはまだ不明確である。なぜなら、実行機能が抑制や更新という言葉に置き換わっただけとも言えるからである。

そこでこの研究では、各制御機能をプロセスレベルに分解することでこれらの問題に解決を図ろうとしている。具体的には、cueの検出、行為選択、行為の遂行の3つのプロセスを想定している。例を挙げると、わりとありきたりだが、cueの検出は赤信号で止まる際に、赤信号を検出して注意を向けることに当たる。そして、こうしたcueはいくつかの行為を結びついていて、時間経過に伴い閾値に達した時に行為が選択される(Noisyな環境だとお互いが競合しあい、行為選択に時間がかかる)。この2つのプロセスは、ターゲットとなるcueや行動とその他のcueや行動との競合にバイアスをかけることで、ターゲットとなる行動が選択されるというメカニズムが想定されている。

次にこうした3つのプロセスを調整する4つの要素に着目している

1つはエラーやパフォーマンスのモニタリングである。Botvinick et al. (2001) を援用し、エラーのモニタリングが制御の効率性をあげることを指摘している。また、パフォーマンスのモニタリングは強化学習の強化学習の文脈で特に重要となり、行為の選択にバイアスをかける仕組みの1つと言える。エラーのモニタリングもパフォーマンスのモニタリングも背後にあつメカニズムを共有している可能性が高い (Botvinick, 2007)

次に, 予測的制御である。予測的制御は、目標と関連のある刺激を素早く検出したり、行為の選択を前もってすることを可能にするなど円滑な制御を可能にする。ただし、予測的制御には認知的コストが多大にかかるため、場当たり的な制御とのバランスが重要である。実際、成人の場合は必要な時以外には認知的コストをかけることを避ける傾向にある。さらに、予測的制御が prepared or intention-based reflexへとつながるとしている。この用語は、制御をすること自体が学習されてしまっていて、自動的ということらしい。たとえば、Stop/signal task (成人の場合はproactiveになっている) で止まれというシグナルが出現したとする。こうしたシグナルが課題と関係なくとも、処理されてしまうという知見を報告している  (Verbruggen & Logan, 2009a)。異なる文献だが、implementation intentionとして報告されている現象とかなり類似している (Gollwitzer, 1999; Gollwitzer, Gawrilow, & Oettingen, 2010; Gollwitzer & Sheeran, 2006).

次に、課題の目標とルールの保持および活性である。この研究では、目標とルールを区別しており、目標はある人が達成すべきことで、ルールはその目標をどうやって達成するかを特定するものだとしている。ルールを活性する際には、前記事の教示から課題モデルを作成する際に必要になった認知プロセスが必要となる。具体的には、単純で既知のルールを組み合わせて階層構造をもつ課題モデルを形成するということに相当する。

最後に、制御をすることは学習の影響を大いに受ける。もともと制御が必要であった行動も練習や試行数を重ねるなかで自動化される。学習を問題にしているのだが、A-Bという連合学習以外にも「AならばB」というルールベースの学習があることを指摘している。では、この連合からルールへと移行はどのようにして起こるのだろうか。Rougier, Noelle, Braver, Cohen, and O’Reilly (2005) では、計算機モデルに対して、ある次元(色)内で刺激の特徴(赤, 黄, 緑)が変化する試行を繰り返し入力して訓練するうちに、前頭前野が次元に対応するルールのような表象(赤に対してのみ反応とかではなく、色全般に対して反応し、それ以外は反応しないみたいなこと)を形成することができていた。一方, PFCシステムを想定しないモデル (Elmanモデルなど)ではSR連合しか形成できないことも示されている。この点はまさに子どものルール表象獲得にも深く関連するところである。ルール表象の獲得が実行機能を支える実態だと筆者たちは考えている。この点ではZelazo教授やMunakata教授との関連は深い。もう少し、大げさにいうならば学習が実行機能の発達を支えているということになる。

以上、筆者たちは抑制!更新!のような一言で終わらせるところをさらに細かくプロセスに分解し、それらに関わるモニタリング、予測的制御、ルールの活性、学習について紹介している。この研究で小人問題が解消されたかどうかは微妙ではあり、さらに細かく刻んだようにも思える。ただし、行動制御の不全といった場合に、1つに原因を寄与するのではなく、あるプロセスとそれに関わる要素に帰属できる点では以前よりも解消の方向に向かっている可能性がある。


Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

0コメント

  • 1000 / 1000