ワーキングメモリ課題における予測的制御

Chevalier, N., James, T. D., Wiebe, S. A., Nelson, J. M., & Espy, K. A. (2014). Contribution of reactive and proactive control to children’s working memory performance: Insight from item recall durations in response sequence planning. Developmental psychology, 50(7), 1999-2008.


ワーキングメモリ内での情報の保持と処理の切り替えは7歳頃からスムーズになる始める (Camos & Barrouillet, 2011)。こうした質的な転換は, 二重過程理論の場当たり的制御から予測的制御への移行にも当てはまる (cue-probeの関係において、cueを保持しながらprobeに反応するのがproactive controlで、probeが出てからcueへと戻るのがreactive cotnrol)。

本研究では, こうした予測的制御について記憶課題の項目間の反応時間で測定する

重要なのは, 成人や児童期においてのちのアイテムを再生するよりも, 最初のアイテムを再生する反応時間が長くなる。つまり、再生を始める前に再生する記憶項目を組織化し、検索できていると最初の項目への反応時間が長くなるというわけである。

では、幼児ではどうなんだろうか。というのが今回の研究である。量的な発達的変化があるのであれば、幼児期でも成人や児童と同じパターンを示すはずである。一方, 質的な発達的変化があるのであれば、幼児期は成人や児童と異なるパターンを示すはずである。

この研究のすごいところは、3歳から10歳まで縦断で記憶課題を実施している点である (大規模プロジェクトの一部)。記憶課題は、Nebraska Barnyardという課題を使用している (図1)。動物 (最大9) が3×3のセルに1匹ずつ提示されて、動物は背景の色を残して消える。子どもは動物と動物の色との連合について学習する段階を経た後に、2匹から子ども自身のスパンに従って1つずつ増やして記憶課題を実施する。

指標は次の3つ。(1) 言い終わってから最初にアイテムを言い始めるまでの準備時間 (2) 正解の項目のみだが、再生にかかる項目間の時間 (3) 最長の記憶スパン

その結果、7歳以降では準備時間がのちの項目間の再生時間よりも長いという予測的制御のパターンを示した。一方, 5歳では逆のパターンではじめの項目をすぐに答えて、その後は項目間の時間が長いか同じかという結果が得られた。3、4歳ではいくつかのスパンで場当たり的な制御が見られていた(場当たり的な制御もまだ十分ではない?)。特に, 8歳以降ではスパンの長さが長くなるほど、準備時間-項目間の時間の指標が大きくなった(より準備するようになった)

まとめると…

記憶課題においても、7歳くらいを境に場当たり的制御から予測的制御へと転換してゆくことが示された。

反応時間からこれだけのことがわかる目の付け所の良い研究。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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