抑制機能をめぐる2つの研究グループ
Simpson, A., Riggs, K. J., Beck, S. R., Gorniak, S. L., Wu, Y., Abbott, D., & Diamond, A. (2012). Refining the understanding of inhibitory processes: How response prepotency is created and overcome. Developmental Science, 15(1), 62-73.
幼児期において抑制機能は発達途上であることは知られているが、
(1) どのような課題で抑制が必要となるのか
(2) 現実世界で抑制すべき優勢反応が出現するのはどういった状況か
(3) 優勢反応の内容が発達とともに変化するか
といった優勢反応の側から抑制機能について検討した研究には2つの説がある
Adele Diamondは, 抑制されるべき反応と活性化されるべき反応の関係が重要であると主張する。具体的には抑制されるべき反応と正解の反応が意味的に関連している場合に, 抑制が難しくなることを示している (夜のイラストに対して昼, 昼のイラストに対して犬)
Simpsonたちは意味的な関連以外に、反応セットの問題も指摘している。具体的には、車に対して本、本に対して車というように、刺激と反応のセットを同じにした場合である。こうした場合には、幼児または児童も抑制が難しいことを指摘している。この結果は、刺激と反応の意味的な関連が抑制の難しさを引き起こすというDimaondの説に合致しない。ただし、幼児については異なる反応セットでも意味的な関連があれば抑制が難しいという知見は追試されている。
こうした対立的な説に白黒をつけるために、2つの研究グループが半分ずつデータをとって実験を行なったのがこの論文である (このスタイルはなかなかすごい)
条件としては
1. Day-night / night-day (difficult baseline):Same-response-set ⁄ semantically-related
2. Bird-hat ⁄ fish-cup (easy baseline): Different-response-set ⁄ no-semantic-relation
3. Car-book / book-car:Same-response-set ⁄ no-semantic-relation
4. Dog-cat ⁄ hand-foot:Different-response-set ⁄ semantically-related
5. Table-boy ⁄ girl-chair:Different-response-set ⁄ semantically-related between-trials
最後の条件は、恣意的なルールを覚えるのが難しい場合に成績が低くなることを確かめるために実施した
個人内で3日に分けて5条件実施したところ、結果は割と綺麗で1と3が他よりも成績が低いし、反応時間も長いことが示された。つまり、Simpsonたちに軍配が上がったわけである。
では、こういった発達途上の抑制機能はどのように克服されるのだろうか
Diamondは、刺激と反応の間に遅延を外的に挿入することで、その遅延中に「正しい反応を入力する」時間ができて抑制の未熟さを克服できるとしている
一方, Simpsonは、優勢反応が生じる直前に遅延を設けることで(箱を見せられてそちらにを伸ばす)、優勢反応自体が減衰し、抑制の未熟さを克服できるとしている
こうした対立的な説に白黒をつけるために、Simpsonたちがデータをとって実験を行なった
幼児版のGo/no-go課題を用いて、遅延なし条件、遅延あり条件、遅延中に妨害課題を入れる条件を設けた
結果、Simpsonたちの予想通り、No go試行では遅延あり条件、遅延中に妨害課題を入れる条件ともに遅延なし条件よりも成績が良かった。しかし、興味深いことに、遅延中に妨害課題を入れる条件ではGo試行の成績が低いことも示された (つまり、goal neglectの状態)。
以上、まとめると…
抑制が難しくなるのは刺激と反応が同じセットに属するとき
→ 本が視覚的刺激として入力された時に、「本」と言語反応をすることは抑えられる。しかし、その課題中で「本」と言語反応をする場面があるのであれば、そうした行動は優勢反応となる
優勢反応が起こる際に(優勢反応を引き起こす刺激が提示されたとき)遅延を入れることで、優勢反応は減衰し始め、適切な正答反応は遅れて出てくる
国を超えて同じトピックの関心を持ち、なおかつ対立した説を持つもの同士が共同研究を実施し、分野全体を進めているのは大事な姿勢であると感じた。
ちなみにこのSimpsonらの研究の実験2は、Barker & Munakata (2015) で覆されているのでその点には要注意
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