ダウン症者の実行機能
Smith, L., Hedge, C., & Jarrold, C. A novel framework to measure executive function in Down syndrome, with applications for early clinical diagnosis of dementia.
American Journal on Intellectual and Developmental Disabilities 2019
ダウン症児者の認知機能の低下を正確にアセスメントする(特にアルツハイマー病の診断)ことが大枠の目標
Lautarescu, Holland and Zaman (2017) では, 実行機能がダウン症児者の認知症をアセスメントするために有効であることが指摘されている
ダウン症児の実行機能は, 他の認知能力に比べると, 劣っている(Borella, Carretti, & Lanfranchi, 2013; Lanfranchi et al., 2010; Reid et al., 2017; Rowe, Lavender & Turk, 2006)という報告もあれば、精神年齢並という報告もある (Pennington et al., 2003)
その中でも特に抑制機能が弱いことが先行研究で指摘されている
ただし, ダウン症児は言語を介した課題に特有の苦手さを抱えていることから、実行機能課題自体が言語を題材として用いているのか、視空間を題材としているかには注意をする必要がある
この研究では1つのパラダイムを通して、ワーキングメモリ、反応抑制、proactive/reactive controlを測定
[方法]
ダウン症者 18名 (平均30.3歳)/ 定型発達 34名 (平均7.6歳) →定型発達児についてはレーブンマトリックの成績をマッチさせた18名を対照群として選定
ダウン症者のみ再検査信頼性を検討するために1ヶ月後にもう一度同じ課題を実施
ワーキングメモリを測定するために保持しておくルールの複雑さを操作 (記憶負荷なし:青のエイリアンは青の船, 記憶負荷低:ピンクのエイリアンは青の船, 記憶負荷高群:黄色とグレーのエイリアンは青の船)
反応抑制を測定するために刺激の位置を操作(Simon課題を参考:エイリアンが正解の船の方に提示されるのか、不正解の船の方に提示されるのか)
proactive/reactiveを測定するために反応に要する時間枠を設定(遅延あり:船が刺激として提示されるまでに1秒あく, その間手がかりの方に注意を向ける準備ができる)
[結果] たくさんあるので、簡略化
反応時間
・ダウン症と定型発達児で差なし
・記憶負荷の効果あり
・遅延がある時の方が反応時間が反応時間が速い
・抑制の効果は有意傾向
・記憶負荷が大きくなればなるほど、遅延の影響を受けやすくなった。遅延なし群では記憶負荷の影響を大きく受けた
正答率
・ダウン症と定型発達児で差なし
・記憶負荷の効果あり
・遅延がある時の方が成績が良い
・抑制の効果は有意傾向
信頼性 (ダウン症者のみ)
・抑制への負荷(excellent) > 記憶負荷(good) > 遅延(slightly poor) (反応時間)
・抑制への負荷(moderate) > 記憶負荷(poor) > 遅延(poor) (正答率)
[考察]
レーブンマトリックの成績でいうと5-10歳ころの今回の参加者には、この課題の難易度は適切
ダウン症者と定型発達児で実行機能課題に成績の差がなかった
遅延に関しては、どちらの群もproactiveな方略を用いていたからだと言える
今後、定型発達児を含めダウン症者の実行機能を測定するうえで非常に有用な課題と言える
個人的には、課題不純問題を克服できている点と記憶負荷と遅延の間に交互作用がある点(ダウン症と定型発達で差はない)で、美しい研究だなと思った。
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