幼児の展望記憶
Mahy, C. E., Mazachowsky, T. R., & Pagobo, J. R. (2018). Do verbal reminders improve preschoolers’ prospective memory performance? it depends on age and individual differences. Cognitive Development, 47, 158-167.
展望記憶とは, 幾らかの遅延の後, 意図した予定を適切なタイミングで自発的に検索する能力である (Einstein & McDaniel, 1990; Smith, 2003)。展望記憶には, ある出来事が起こった時に想起するタイプとある時間になった時に想起するタイプがあるが, 子どもを対象にした研究では多くは出来事ベースの展望記憶を扱っている。
実際, どのような課題を扱っているのかを簡単に紹介する。子どもはカードを色か形かに分類する背景課題を行うように教示される。その際に, ある手がかり(e.g., 動物の絵柄)を持つカードが出れば特別な箱に入れるような展望記憶課題を課せられる。多くの場合は, この後に遅延を設けるために別の課題が実施され, その後に先のカード分類へと移る。最後に, 展望記憶課題についてきちんと理解できていたかを確認する。こうした課題を行うと, 2歳まではそもそも展望記憶課題を最後まで記憶していないのに対して, 3・4歳では展望記憶課題自体は覚えていても, 特定の手がかりに対して失敗して反応してしまうことが知られている (Mahy & Moses, 2011)
こうした結果からも, 特定の手がかりがでた際に周囲が補助する必要性は十分にわかるだろう。たとえば, 視覚的に展望記憶の手がかりを思い出させるようなリマインダーを提示すると, 展望記憶課題の成績が良くなることが知られている (Kliegel & Jäger, 2007; Cheie, Miclea, & Visu-Petra, 2013)。しかし, いままでに言語的なリマインダーを検討した研究はない。ここでいう言語的リマインダーとは「動物の絵柄のカードが出た時に特別な箱に入れることを思い出してね」と口頭で伝えることにあたる。
筆者たちの検討したいことは, 幼児において展望記憶課題の失敗がなぜ起こるかということである。2つの可能性 (排他的ではないけれども)があって, 1つは展望記憶課題の存在自体を忘れてしまうから展望記憶課題に失敗する, もう1つは特定の手がかりを見つけることに失敗してしまうため展望記憶課題に失敗するという2つである。特に後者については, ある特定の手がかりをみつけるまたは探すことと実行機能とが関連しているという仮説を持っている。
この2つの可能性を統合的に検討するために, 異なるリマインダーの挿入を試みている。具体的には, 手がかりを思い出させるようなリマインダー(回顧リマインダー)は展望記憶課題の存在自体を忘れてしまう子どもに効果があるものの, それ以外の子どもには効果がないと予測される(今回は比較的年齢が高い子どもを対象にしているので, 効果がないと予測)。また, 手がかりを探すように求める言語的リマインダー(展望リマインダー)は, 実行機能が高い子どものみに有効であると予測している。個人的には, この後者の予測は意外で, 実行機能が低い子どもには有効であると思っていた。
123人の4~6歳児を対象を対象にしており, 統制群, 回顧リマインダー群, 展望リマインダー群の3つに分類された。一応, 各群の教示をあげておくと, 遅延を置いた後に, 統制群は「じゃあ、カードゲームを始めるね!」, 回顧リマインダー群は「じゃあ、カードゲームを始めるね!動物の絵柄のカードを見つけたら, 箱の後ろにおいてね」, 展望リマインダー群は「じゃあ、カードゲームを始めるね!カードの絵柄を気をつけて見ておいてね」という具合である。
結果, 回顧リマインダーも展望リマイダーも展望記憶課題の成績を向上させなかった。ただし, 年齢とリマインダーの種類に交互作用があった。統制群では, 6歳と4歳との間で展望記憶課題の成績に差があり, 回顧リマインダー群では, 5歳と4歳との間に差が見られた。展望リマインダー群では, 4歳でのみ展望記憶課題の成績が統制群に比べて下がるという知見が得られた。また, 実行機能と展望記憶課題との関連は, 年齢が高い子どものみみられた。実行機能の高い子どもは展望リマインダー群で統制群に比べて成績が良いということも示された (相関から結果を導き出しているのでそこまで言えるかな…)。これは著者らの予想通りの結果にもなった。ただし, リマインダーをうまく活用できるために必要な実行機能と展望記憶に関わる実行機能が同様のプロセスなのか, 違うプロセスを指しているのかはいまいちわからなかった。ここのメカニズムはもう少し整理して考える必要があるなと感じた。
わりと研究が少ないので, 色々とやりようのあるテーマかもしれない。最後に, もう少し理論的なところや成人の知見などが気になった方は, 非常にまとまった理論的なレビューとして内海・齊藤 (2017) があるので, そちらを参照してもらいたい。
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