オンライン発達研究の動向

3月末の発達心理学会でオンライン発達研究のラウンドテーブルを実施しました。ラインナップは以下のような感じです。

・オンライン研究における利点・欠点:参加者募集,発達実験,行動観察(佐藤鮎美先生)

・Zoomを用いた対話型のオンライン実験ー絵本の読み聞かせをテーマとしてー(佐藤賢輔先生)

・Gorillaを用いたこどもオンライン実験と実験室実験の比較ー顔の表情と感情音声の知覚ー(山本寿子先生)

・Pavloviaを用いたオンライン実験の実施例ー児童期以降の実行機能の発達ー(私)

登壇者の先生方の発表はどれも面白く、幼児研究を今後進めていくうえで大変参考になりました (Zoomを用いたご研究やGorillaを用いた研究)。私も自身が実施した児童を対象にしたオンライン実験 (Pavloviaを用いました) の内容を発表しました。先生方がラウンドテーブルで発表した資料と質疑応答集は以下からアクセスできるので、今後オンライン発達研究を実施する予定の方はぜひ参考にして欲しいです

これに加えて、プレプリントでZoomを用いたオンライン発達研究の良い面と今後の課題をまとめた研究を見つけたので、いかに少しまとめておきます。この研究では、オンライン発達研究をいち早く実施した研究者にアンケートをとって、良い面と課題となる事項をまとめています。ほとんどの研究者は、インターネットを利用したオンライン発達研究は必然的に新たな手段であり、コロナ後も長く続くだろうとの見解で一致。Children Helping Science, Global Kids Online, Lookit planned endeavors (e.g., CRADLE) など, オンライン発達研究の協力体制を作る必要があると最後に主張しています。

Su, I., & Ceci, S. (2021, March 5). “Zoom Developmentalists”: Home-Based Videoconferencing Developmental Research during COVID-19. https://doi.org/10.31234/osf.io/nvdy6


・良い面(Bright side)

時間と場所に縛られない

実物のカメラよりも社会的望ましさを抑えられる可能性

Zoomのブレイクアウトルームを使えば複数人・グループでも対応可

同じリンクを使えば複数回の調査に伴うドロップ率が下がる

子どもにとっての日常空間を対象にできる

・課題 (Hidden Concerns)

統制された環境を作ることが難しい (参加児以外の兄妹が入ってくる、背景音がどうしても入る)

子どもの注意力が散漫になってしまう傾向がある

保護者に様々な面で頼ることが多くなり、子どもの取り組みに影響を与えないようにお願いすることが難しい

非言語コミュニケーションや運動系の課題ができない

Zoom疲れ (参加児の休憩も長い傾向があり、実験者にも負担が大きい)

Zoomのビデオに映った自分自身に気を取られる (特に小さい子どもの場合)

実験者が複数の役割をする (今まではラボで分業制だった)

実物とメディア上に投影されたものを同じと考えて良いのか(現実と空想の区別が曖昧な年齢は特に)

研究に参加しているというある種の緊張感がないケースもある(日常の延長)

リクルーティングが競合するため、参加報酬を引き上げざるおえない


私たちが実施したラウンドテーブルでも類似した良い面と課題があげられていたように思います。課題面で日本で言われていなかったのは、Zoomのカメラに映った自分に気を取られる、実験者が複数の役割をする(日本はもともと実験者が複数の役割を兼ねている)、実物とメディア、参加報酬の問題などでしょうか。逆に日本でのみ言われていたことは、オンライン実験の対象となるのは実感として何歳からか、研究倫理の問題、対面実験とオンライン実験の追試に関する問題などです。個人的には、最後の問題はこれからどんどん話題になっていくと思います。

今回はオンライン発達研究について考えるいい機会になりましたが、今後も自らの経験の蓄積やノウハウはどんどん公開していくべきだと考えています。日本ではラボごとという状況になっている感じは否めないが、そもそもラボ間の競合はあまりない状況で(テーマがかぶっているのはほとんどないのでは?)共有しないことのメリットは少ないのではと思います。大規模系の調査は、すでに海外でやられはじめているので、もう少しテーマを絞って何かやれたらなあと思います。

Yanaoka's research page

大阪教育大学で教員をしている柳岡開地 (Kaichi YANAOKA) のウェブページです。 子どもの認知発達に関心があり,実験や観察を通じて研究を行っています。 ※このウェブページは個人的な場所であり,所属とは関係ありません。 ※リンクいただける方はご一報ください。

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