自分がしたのか, 相手がしたのか
Gerson, S. A., & Meyer, M. (2020). Young Children’s Memories for Social Actions: Influences of Age, Theory of Mind, and Motor Complexity. Child Development.
近接した領域にも関わらず, 全く知らないことは数多くなる。そのうちの1つで最近読んだのがAppropriation Errorというものである。行為, 記憶といったキーワードは私の得意の分野であるにも関わらず, この用語自体全く知らなかった。Appropriation Errorというのは, 他者の行為経験を自分のものだと誤認識するエラーのことである。つまり, 自分はしていないのに自分がしたというものである。この逆のエラーはあまりないらしい。つまり, 自分のしたことを相手のしたことだと認識することはあまりないようである。6~8歳よりも4歳の方がこういったエラーが多く, 2歳半からこのエラーはすでに見られるらしい。このエラーは, 他者から多くのことを学習する際には大事かもしれないということが指摘されている。
Appropriation Errorを起こさなくなることには発達的な要因が絡んでいる。例えば, 心の理論。自分と相手の心的状態や信念を区別して表象できるようになれば, この勘違いエラーは起こらない。実際, すでに幼児期では心の理論との関連も見られている (Ford, Lobao, Macaulay, & Herdman, 2011)。他にも, 状況要因として一緒の目標に向かって共同している場合である。一緒のゴールに向かっているため, 相手の状況や次の行動をより予測しようとする。そうした中で, 自分がした行動と相手のした行動がごっちゃになるというのである。他には感覚運動経験である。すごく直感的ではあるが, 自分のできそうな簡単な行為であれば勘違いエラーは起きやすそうだし, 自分の出来なさそうなことについては勘違いエラーが少ないのかもしれない。この研究では, この年齢, 心の理論, 行為の難易度という3つの変数とAppropriation Errorの関連を検討する。
3~8歳の子どもを対象にTurn taking課題をする。実験者と子どもが順番に1つずつ行為(下図)をしていって共通の目標(海賊の服を着せてあげて, 準備を整える)を完成させる。この論文はオープンアクセスなので, 図の写真の1部を添付する。この%は実験者の行為の難しさを示しており, 参加児の担当の行為は全て簡単なものであるが, 実験者のものはばらつきが出るようにしている。
このturn taking課題を実施した後に, 心の理論課題をやっている。最後に, メインである行為の記憶を尋ねている。上の写真を提示してどちらがした行為かを尋ねる。
結果, やはり「自分がした!」と答える割合の方が「実験者がした!」と答える割合よりも高いそうである。月齢も低い子どもの方がこうしたエラーが多く, 心の理論も関連しているとのこと。特に複雑な行為においてエラーが減ることには心の理論が関係しているという結果が得られた。試行数が少ないのが気になるところであるが, この結果は概ね実験2でも追試されている。
これらの結果を受けて考えてみると, 面白そうな可能性が出てくる。心の理論が低い場合は, パートナーがした行動はその難易度に関わらず自分がしたと思う傾向にある。もし, それが行為の再生再認と結びつくのであれば, 心の理論が低い方が難易度の高い行為をよく覚えていて再生できることになる。ただ, この可能性は難易度が高い行為に限られてしまうので, 検証がむずかしいかもしれない。もう1つは, 心の理論が高い子どもは自分のできそうな行為のみ自分がしたと覚えているため, 行為の記憶成績が良い可能性である。難しい行為はそもそも自分がしたとは思っていないので, そちらには労力を割かない。この可能性の方が検証しがいがありそうである。さすがChild Developmentということで新しめの内容を手堅くまとめている。今後も少しずつこの手の研究が増えることに期待。
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